『汽車旅放浪記』
『汽車旅放浪記』 関川夏央 著 中公文庫
関川氏は、確か、夏目漱石に関する本を出されていたはずで、その関係で買った本だと思う。まあ、はっきりは覚えていないのだが。
関川氏は、所謂“鉄道ヲタク”のようだ。
実際のところ、“鉄道ヲタク”がどういった集団なのかは、よく知らない。が、よく問題になっているような、電車の写真を撮影したいがためにトラブルを起こす一団とは別に、地方の鉄道を乗るためにわざわざ出かける人達がいて、関川氏は後者に該当するようである。
いや、ご本人は、
わざわざそのために遠出するわけではない。所用のついでにという態度を崩したくないのは、オタクではないといいたいからだ。
と記している。そういう事にしておこう。
で、関川氏がローカル線に乗った記録と、そこに縁のある人物を絡ませた文章が綴られている。萩原朔太郎、高村光太郎、長沼智恵子、川端康成、岸恵子、坂口安吾、小林秀雄、上林暁、中野重治、山口哲夫、荒川洋治、山本周五郎、松本清張、林芙美子、太宰治、宮沢賢治、宮脇俊三、イザベラ・バード、夏目漱石、森田草平、平塚明子、内田百閒、平山三郎……。
夏目漱石との関連で、『坊っちゃん』『門』『草枕』『三四郎』などに登場する鉄道の表現に言及している部分は、興味深かったし、松本清張、宮沢賢治、内田百閒らの逸話も印象に残った。
しかし、関川氏が乗った後、文庫版が発行されるまでの間に廃線になってしまった路線もあるようだ。
単なる“移動”ではなく、鉄道による“旅行”。
ゆっくりと楽しむ余裕は貴重で、そして、思っている以上に贅沢なものなのかもしれない。