“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『「レ・ミゼラブル」百六景』

『「レ・ミゼラブル」百六景』 鹿島茂 著 文春文庫

新装版 「レ・ミゼラブル」百六景 (文春文庫)

 タイトルは知っていて、部分的にはあらすじも知っているが、きちんと読んだことのない文学作品は多々ある。『レ・ミゼラブル』も、そういった作品の1つだ。

 『ああ無常』の邦題で、かなり端折られた“子供向け”の本の方は読んだのだが、謎だらけだった。

 例えば、ジャン・ヴァルジャンがパンを1つ盗んで長期間牢屋に入れられた、という部分。フランスの牢屋事情はどうなっているのだろうか? もっと凶悪な犯罪者はそれなりにいるだろうに、ひょっとしてフランスは牢屋だらけなのか? 

 教会で銀の燭台を盗んだが、司教に庇われて無罪扱いになったはずなのに、ジャン・ヴァルジャンは、以降もずっと警察に追われ続けるのはなぜなのか?

 ジャン・ヴァルジャンは、流れで、コゼットを助けることになるが、その頃までに、随分と羽振りが良くなっているのはどういうことなのか?

 

 “子供向け”に書かれた抄訳本では、“不適切”な部分がバッサリと削られていたのだろう。そして、長い間、コゼットを救い出したところが結末だと思い込んでいた。こんな中途半端な読書経験しかないのが、自分にとっての『レ・ミゼラブル』である。

 

 鹿島氏はもちろんフランス文学の専門家である。が、

自分の体験から割り出すなら。『レ・ミゼラブル』全巻を原書で読んだことのあるフランス文学研究家は、『大菩薩峠』を読了した国文学研究家よりも少ないのではないかという気がする。

と、書いている。

 意外と、そんなものなのかもしれない。

 

 この作品はもともと、1879年から1882年にかけて出版された挿絵(版画)入りの『レ・ミゼラブル』(ユーグ版)の挿絵の主だったものに、解説を付けた、というもの。文庫版を出すタイミングで、他の補助的な図版も入れられた、とされている。

 ミュージカルのポスターに使われている、見覚えのある絵も、このユーグ版の挿絵が基になっているようだ。

 とにかく、『レ・ミゼラブル』が、実は、かなり長い作品であること、19世紀のフランス史や当時の状況を知らないと、よく分からない作品であること、が分かった。ここで、日本語訳だけでも挑戦してみるという気分にはなれなかった。『大菩薩峠』も無理だと思う。