“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『懐石料理とお茶の話(上) 八代目八百善主人と語る』

『懐石料理とお茶の話(上) 八代目八百善主人と語る』 江守奈比古 著 中公文庫

懐石料理とお茶の話 上 - 八代目八百善主人と語る (中公文庫)

 上巻の方だけがあった。この本が“積読”になっていたのは、おそらく、下巻が見つかってから通して読むつもりで、忘れてしまったからだろう。

 

 享保年間に創業したとされる料理屋、八百善。

 その八代目善四郎は、明治16年生まれ。生家は茅場町の同心の家だったらしい。時代劇の世界がまだ残っていた時代という感じだ。10歳で栗山家の養子となり、22歳で八代目栗山善四郎を襲名。その後、ほぼ60年、のれんを守り続けたという。

 まだ江戸時代だった頃、八百善は、武家文人墨客を相手にする店だった。明治維新後になると、政財界、文化人、軍人、さらには海外からの著名人なども来店する店として、様々な逸話が残されることになった。

 著者の江守氏は、茶道研究家・茶室研究家として知られていたようだ。この江守氏と八代目善四郎の対談という形で、昭和29年から5年間、月刊誌『新文明』に掲載されたものを纏めたのが、海南書房版『懐石料理とお茶の話』。本書は、さらに文庫版に編集し直したものである。

 八百善を贔屓としていた酒井抱一について語られた部分は、なかなか興味深かった。また、記録としては残っているが、八代目の時点で、既にどのような料理なのか分からないという献立の解説、一方で、八代目の頃の料理や仕入れの話、客として訪れた著名人(安田善次郎大倉喜八郎大川平三郎など)との逸話など、明治から昭和前半にかけての世相、飲食文化の歴史資料としても面白い内容である。

 下巻も読みたい。

 しかし、自分は、出来る限り実店舗での購入を心がけているのだが、下巻を探しに書店をまわると、また“積読”を増やしそうな気がする。悩ましいところだ。