“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『深海生物学への招待』

 今週のお題は、“海を超えて旅に出る”ということで海外旅行ネタなのだが、海を超えるという表現であれば深海ネタもありなのではないだろうか?

 

『深海生物学への招待』 長沼毅 著 幻冬舎文庫

深海生物学への招待 (幻冬舎文庫)

 著者は、1961年、人類初の宇宙飛行の日(たぶん『地球は青かった』のガガーリンが宇宙へ行った4月12日)に生まれたそうだ。が、宇宙の方ではなく、深海の方へ挑戦している研究者である。

 謎の深海生物チューブワームを中心に水深1000m以深の海洋世界に生きる様々な生物について、それらが生きる深海や熱水噴出孔という環境について、探査する潜水船についてが、なぜか詩や小説の一説をまじえて綴られている。長沼先生は、結構ロマンチストなのではないかと思う。

 

 チューブワームには口が無い。食べることを放棄したのだ。深海の熱水噴出孔と呼ばれる場所から湧き出る熱水に含まれる硫化水素を取り込み、共生しているイオウ酸化バクテリアによって作り出されたエネルギーを利用して生きている。

 そして、クジラの遺骸もイオウの供給場所だという。

 2023年1月上旬に大阪の淀川河口に迷い込んだマッコウクジラが話題になったが、あれが海底に沈むと大量のイオウ供給源となり、イオウは多くの深海生物の生命を支えるエネルギーを生み出す。

 

 日本の研究機関はトップダウン方式で、上層部の意思が研究計画に強く反映される。しかし、研究者個人の思いつきや興味から生まれた研究計画はしばしば他人(特に上層部)には受け入れられず、それを発展させることもままならない。(略)上層部のお気に召さないらしく、研究予算をつけてもらえなかった。

 一方、アメリカではサンタカタリナ海盆の鯨遺骸の後、続々と新たな鯨遺骸が発見され、継続的かつ実験的な調査研究が進められている。

 要するに、クジラの遺骸が分解されていく経過を継続的に観察・調査することは、深海生物学的に大事だと考えられ、予算申請をしたものの、日本では却下されてしまい、アメリカに先を越されてしまったということなのだ。

 残念な感じであるが、日本の深海調査船・無人探査機開発は頑張っている方だ。「しんかい二〇〇〇」、「しんかい六五〇〇」、「かいこう」。

 今後も、海に囲まれた我が国にとって重要な海と海の生物の研究に期待したい。