“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『ゼムクリップから技術の世界が見える』

『ゼムクリップから技術の世界が見える イデアが形になるまで』 ヘンリー・ペトロスキー 著 平凡社ライブラリー

ゼムクリップから技術の世界が見える アイデアが形になるまで (平凡社ライブラリー)

 著者のヘンリー・ペトロスキー氏は1942年生まれ、81歳のアメリカ合衆国の土木工学の研究者で、失敗学の専門家でもある。

 鉛筆やクリップなどのインダストリアルデザインの研究で有名らしい。

 この本でもペーパークリップや鉛筆、シャープペンシル、ジッパーなどに言及している。

 最も興味深かったのは、第5章の「ファクシミリとネットワーク」。

 新型コロナ感染のパンデミック状態最中、医療機関において、保健所とのやり取りにファックスが使われていて、そのやり取り業務が煩雑で負担になっていることが話題になったが、実際、いまだにファックスは様々な場所・場面で使用され続けている。

 某大臣が聞いたら怒りそうだが、それにはそれなりの理由と事情があるのだろう。それは、ファックスことファクシミリの開発と普及に、他ならぬ日本と日本企業が大きく関与していたという事実だ。

 そして、時代遅れの技術のようでいて、使われ続けている大きな理由は、手書きのものをそのまま送信できるという点にあるように思う。雛形書式が単純かつ適切であればチェック等は手書きの方が早いこともあるし、アイデアのメモ書きや、手書きの図やイラストなども、パソコンに取り込む作業無しで送信可能だ。

 この本は1996年に刊行されているため、やや古い部分もある。が、最後の章である第9章の「建物とシステム」を読んだ時、予期せぬ問題として書かれた世界貿易センターの双子のタワーについての記述に少なからぬ戦慄を覚えた。実は、有名な9・11の前に、1993年にもテロがあったのだそうだ。その時は、テロ攻撃に耐え、警備は増強されたようだが、警備の重要箇所は地下スペースだったという。

 刊行後に起きた事件や変化を知っているからこそ、この本は、今読んでも充分に価値があると思った。