“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『深き心の底より』

『深き心の底より』 小川洋子 著 PHP文庫

深き心の底より (PHP文芸文庫)

 実は、なぜこの本を買っていたのか、まったく思い出せない。

 著者の名前はさすがに知っているが、他に一冊も読んだことがないのだ。有名な『妊娠カレンダー』も『博士の愛した数式』も『ブラフマンの埋葬』もタイトルは知っていたが、読んだことはない。

 ちなみにこの本、1999年に刊行された本を2006年に文庫化したものである。

 

 購入した時にかかっていた帯には、“『博士の愛した数式』 その物語は、ここから生まれた!”という文が入れられていたが、映画化もされた有名な小説は2003年に刊行されているので、このエッセイ集には登場しない。作家デビューから10年間という初期に綴られた文だった。

 

 金光教という聞き慣れない宗教が出てきて、宗教関係が苦手な自分は、一瞬ぎょっとしたが、新興宗教にしては穏やかな内容で、小川氏は、宗教3世という立場になるようであるが、昨今問題になっている宗教2世たちとは随分違う人生を歩んでいる。

 それでも、宗教から大きな影響を受けているのは確かなようで、“死”に独特な思い入れがあるような感じが窺える。

 子供の頃の愛読書が『家庭の医学大辞典』だったそうだ。

 サン=テグジュペリの死、アメリカの所謂ゴミ屋敷で、ゴミの下敷きになって窒息死した弟と、弟が亡くなったために餓死した要介護者だった兄という兄弟の話、小学生だった頃のクラスメートの母の死、大学卒業後に勤めた大学病院で感じていた死の感触のようなもの、『アンネの日記』に纏わる話、飼っていたハムスターの死、映画『タイタニック』で描かれた西洋の死生観、ヨット「たか号」遭難の話、といった感じで、死に関した話が続く。

 

 どうして買ったのか思い出せないが、このエッセイ集を“積読”にしておいた理由は分かる。

 死の話を読むのは、ちょっと体力が要るのだ。疲れている時は難しい。