“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『将軍たちの金庫番』

『将軍たちの金庫番』 佐藤雅美 著 新潮文庫

将軍たちの金庫番 (新潮文庫)

 この本は平成元年、つまり1989年に刊行された『江戸の税と通貨』を改題して2008年に文庫化されたもの。

 著者は、歴史経済小説を続けて執筆していた時期があり、その関連資料を10年近く漁っていたという。

 江戸時代の経済と取り組んでいて、つねに気になったのが銅と長崎である。銅と長崎を知らずして江戸時代の経済は語れない。あるときそう悟ったのだが、もちろん道案内をしてくれる専門書などというのはなく、途方に暮れてしまった。

 世界遺産登録された石見銀山のことがあったので、なんとなく、日本がかつて銀輸出国であったことは、薄っすら記憶の隅に残っていた。石見銀山の最盛期は戦国時代後期から江戸時代前期で、その頃、日本は世界の銀の約3分の1を産出したとも推定されるとか。

 しかし、鎖国後に長崎のみが貿易の窓口になった頃には、日本の金銀産出量は急激に細ってしまったという。その代わり銅が大量に産出するようになったため、オランダ人や中国人相手に銅を輸出していたのだそうだ。

 今の、小資源国としての日本を思うと、歴史的に金属資源の輸出国であった時期があるというのは、なんだか不思議な感じすらする。

 

 そして、著者の言うところの「官府の印理論」は、むしろ現代では当然のようになっている通貨の認識が、当時はかなり特殊であったらしいこと、政府の刻印を打つことによって3倍の価値を与えてしまうという“錬金術”は、世界でもあまり例が無かったということ、さらには、そこまで高度な経済政策を行っていたはずの江戸幕府なのに、きちんと理解していたのがほぼ長崎の地役人だけであったというのも驚きである。

 

 いずれにせよ、狙って行ったわけではないのに上手くいくこともあれば、一見良さそうな感じなのに大失敗に終わることもある。

 誤解や認識違いが、経済や歴史を大きく動かすこともある。

 興味深い内容であると同時に、経済政策とは難しいものだと感じる本だった。