“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『フェルメール ー謎めいた生涯と全作品』

フェルメール ー謎めいた生涯と全作品』 小林頼子 著 角川文庫

フェルメール ――謎めいた生涯と全作品 Kadokawa Art Selection (角川文庫)

 2023年2月10日から、オランダ・アムステルダム国立美術館で大規模なフェルメール展が開催されている。現存する作品は35点あまり(諸説あり。少ない説だと32点、多い説では37点)と考えられているそうだが、そのうち28作品が集められている。

 著者の小林氏は、日本におけるフェルメール研究の第一人者らしい。

 こんな画家がいると画集を見せられ、そのなかの一枚、《牛乳を注ぐ女》がことのほか心に残ったのだ。勉強してみよう、そう思い立ち大学に入ったのが二六歳の時。その後、大学院でもフェルメールをテーマに選んだが、イタリアの偉大な画家の研究をしろ、どうせオランダ画家を研究するならレンブラントにしろ、なぜそんなマイナー画家にうつつを抜かすのかと、ずいぶんたくさんの横やりが入った。でも、いまから四〇年も前に編まれた必ずしも質のいいとはいえない画集で《牛乳を注ぐ女》を初めて目にしたときの不思議な感覚がどうしても忘れられず、にっこりと笑いつつ貴重な忠告には無視を決め込み、我が道を行くことにした。

 この本は2008年に出されている。東京都美術館での「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」開催に合わせたのだろう。冒頭の文にも、ちらりと日本の展覧会事情・内輪話が書かれている。

 なお、タイトルで“全作品”とされているが、2008年時点でフェルメール作品として確定されていなかった《聖女プラクセディス》はこれに数えられていない。一応可能性ありとされている作品としてモノクロ写真とともに簡単に紹介されているが、小林氏は疑わしいと考えていたようだ。

 《フルートを持つ女》は取り上げられていない。

 一方で、いまだ微妙な位置にある《赤い帽子の女》は、小林氏的にはやはり疑わしいとしながらも、“全作品”35点に含まれていた。

 2008年時点の本ゆえ、《窓辺で手紙を読む女》のカラー写真は黄ばんでくすんだもので、あのキューピッドの画中画は塗り潰されたまま。ただ、そこにキューピッドの絵があることが分かるX線写真が同時に載せてあった。この時点では、小林氏はフェルメール自身が創作の過程で試行錯誤し、キューピッドの画中画を塗り潰したと考えていたようだ。その後の調査で、後世の誰かが塗り潰したということが判明したため、修復でキューピッドが再登場。修復後最初のお披露目展覧会が日本での開催だったため、2022年の話題となったのは記憶に新しい。