“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『語りかける花』

『語りかける花』 志村ふくみ 著 ちくま文庫

語りかける花 (ちくま文庫)

 国語の教科書に載っていた文というのは、なんとなく覚えているものである。

 中学の国語の教科書に、桜の色を染める話に絡めたエッセイがあった。桜の色というと花びらを使って染めるように思いがちだが、実際は桜の樹皮を使うということで、そのことを伝え聞いた子供たちが、染色家を招いて、地元の桜の木の樹皮で染めてみたら、期待していたような美しい薄紅色には染まらなかったという内容だった。

 著者は詩人の大岡信。『言葉の力』という題だった。

 長い間、その染色家の名前を失念していたが、ある時、たまたま読んだ新聞記事に件の“上手く染められなかった”桜の色の逸話が出ていて、かなり有名な染色家であることを知ったのだが、同時にその染色家・志村ふくみ氏自身もエッセイを書いているということが分かった。

 

 この本にも、その桜の色の逸話が登場する。

 染色家である故なのだろうが、色、そして花々に関するものが多く、色彩に対する鋭敏さ、豊かな感性を思わせる。複雑な家庭状況のもとに育ったようであるが、同時に、染色家であった実母の存在や、夭折した兄が画家の小野元衞であったということは大きかったのだろう。

 絵画、音楽、舞踊、映画、和歌などにも言及されていて、その幅広い守備範囲には驚かされる。また、多くの芸術家との交流も窺い知れる。

 さらりと何という事もないような書き方をしている部分もさすがという感じがする。