『ウイルスたちの秘められた生活』
『ウイルスたちの秘められた生活 決定版ウイルス百科』 ウエイン・ビドル 著 春日倫子 訳 角川文庫
この本は1996年に刊行された本を加筆・修正して2009年に文庫化したもの。
なので、内容は古い。
さらに、タイトルでは“ウイルス”が強調されているが、結核菌やコレラ菌といったウイルスではない病原体も取り上げられている。実は、原題は A Field Guide to Germs なので、日本語版のタイトルが間違っているのだと思う。
あるいは、当時、新型インフルエンザが問題になっていた上に、2007年にコンゴとウガンダでエボラ出血熱の大発生が起きていたようなので、わざと“ウイルス”としたのかもしれない。
ちなみに、コロナウイルスに関しての記述は、
コロナウイルスは三日もあれば呼吸管で十分に増殖し、患者は不快を感じはじめる。平均して、このかぜは一週間で治り、典型的なライノウイルスのかぜより数日短くてすむが、鼻づまりはこのほうが激しい。コロナウイルスは驚くほど宿主に再感染するのがうまく、ワクチンがたよりにならない理由の一つはそこにある。
この病原体が重要なのは病気が重いからではなく、それが始終ヒトを襲うため、鼻づまりで不機嫌になる人々がひどく多いからである。
呼吸管という訳がちょっと、どうなんだろうか? という点も含めて微妙な感じである。新型コロナウイルス(COVID-19)が登場するまでは、こんな扱いだったのだなあと思うと、ウイルスの変異の恐ろしさを痛感する。変異によって毒性が落ちてくれる分には良いのだが。
そんなわけで、この本から最新の知識を得ることはできない。
ただ、この本が面白いのは、感染症に関連する興味深い写真や図版のチョイスにあるように感じる。
細菌学者ロベルト・コッホの1903年の来日時の記念写真(夫婦で和服を着ている)とか、狂犬病のイヌに対してパニックになるロンドンの様子を描いた漫画だとか、ポリオの予防接種を受けるエルビス・プレスリーの写真だとか、よく、こんなものを見つけてきたと感心した。