“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』

『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』 ポール・アダム 著 創元推理文庫

ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 (創元推理文庫)

 『ヴァイオリン職人の探求と推理』に続くシリーズ2作目。

 前作から1年以上たったある日、ヴァイオリン職人兼修復師のジャンニことジョヴァンニ・カスティリョーネの家と工房のある敷地に向かって、大仰な車列が疾走してくるところから話が始まる。

 先頭は青と白のパトカーで、ルーフのライトを点滅させているものの、ありがたいことにサイレンは鳴らしていなかった―イタリアの警察が自制心を見せるのは珍しい。そのパトカーの後ろには濃色ウィンドーのついた光るダークブルーのアルファロメオ、その後ろが黒い装甲ヴァンで、銀行が支店に現金を運ぶときに使うような車だ。列の四台めは赤いフィアット・ブラーヴォ、それから銀のメルセデスのセダン。しんがりをつとめるのはまたもやパトカーだった。

 6台の護送車両集団が警備していたのは、1挺の、しかし非常に特別なヴァイオリン、イル・カノーネの愛称で呼ばれるパガニーニの愛器グァルネリ・デル・ジェス。

 非常に高価で貴重なヴァイオリンも楽器なので、演奏に用いられる。しかし、誰にでもその栄誉が与えられるわけではない。本作の設定では、イル・カノーネは普段はジェノヴァ市で管理されているが、パガニーニ国際コンクールの優勝者が一度だけ演奏会に用いることが許可されることになっている。そして、特例として二度目の演奏をクレモナで行う許可を得たのが若きヴァイオリニスト、エフゲニー。

 つまり、エフゲニーがジェノヴァ市からイル・カノーネを借りていたわけなのだが、不注意で傷を付けてしまったのだ。

 

 ネタバレになるが、割とあっさりとイル・カノーネの修復は行われてしまう。

 問題は、その後に色々と起こってくるのだ。エフゲニーのリサイタルに来ていた美術品ディーラーが撲殺死体で発見され、その美術品ディーラーが残した物がどうもパガニーニに由来する物らしいということに。一方で、エフゲニーが行方不明となり、過保護気味のエフゲニーの母親が情緒不安定となってジャンニと友人の刑事アントニオを困らせる。

 ということで、北イタリア、パリ、ロンドンを舞台に、事件と天才ヴァイオリニスト・パガニーニの遺した謎の遺産と秘密についての謎解きが展開する。

 謎の遺産の中身の正体が分かっても、もう一捻りがあって、それがちゃんと効いているところも良い。

 

 個人的には、北イタリアの地名というか位置関係が分かった方が楽しめそうなので、地図を見ながら読んだ。冒頭にヴァイオリンの部位の名称の図が入っているのだが、どうせだったら簡単な地図も入れてくれたらいいのにと思ってしまった。

 シリーズ3作目が、なぜか日本オリジナルの書き下ろしで出版されている。クレモナの殺人事件件数は増えてほしくないが、以降のシリーズも期待したい。