“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『あのころのデパート』

『あのころのデパート』 長野まゆみ 著 新潮文庫

あのころのデパート(新潮文庫)

 先月1月31日で渋谷の東急百貨店本店が閉店した。55年の歴史だそうだ。跡地には36階建ての高層ビルが建つ予定らしいが、百貨店を再開するかどうかは未定という発表がされた。

 2022年末には、西武百貨店池袋本店にヨドバシカメラが出店する計画が進んでいる件に豊島区長が反対を表明して、物議を醸しだした。

 日本国内において、百貨店・デパートは終焉を迎えつつある。

 

 “積読”になっていたこの本は2012年に出され、2016年に文庫化されたものだ。つまり、10年くらい前の著者は、デパートの衰退を残念に思いつつ、まだ何とかなってくれるのではないかという淡い期待を持って書いたのだろう。東日本大震災からまだ1年ほどしか経っていない時点で書かれたことを窺わせる文も紛れている。

 

 Wikipediaによると、著者は女子美の産業デザイン科を卒業してから百貨店に勤め、フリーの商業デザイナーを経て小説家になったようだ。

 この本の中では、関西系のK百貨店に就職しP百貨店へ転職したとなっている。頭文字と所々に小出しされた情報で、K百貨店は近鉄百貨店(親会社が関西の電鉄会社。親会社がプロ野球球団を所有していた)、P百貨店はプランタン銀座(親会社が関西のスーパーD)と推測される。

 著者が子どもの頃のデパートに出かけることそのものが特別だった時代の話、実際に勤務し経験した話、2010年前後の頃の東京のデパートの印象が、脱線を含みながら前後して書かれている。

 内情を知っているからこそ複雑な感情があるようで、子どもの頃のどこかきらきらした思い出と比較して、裏話はやや否定的な内容が多い。

 困った客とのやりとりがいろいろと出てくるのだが、それを読むと、昔から小狡い人間は少なくなかったし、最近になって急に日本人のモラルが低下したわけではないという、ある意味残念な事実が浮かぶ。

 

 ちなみに、最後の部分で解説を書いているのが、松浦弥太郎氏だった。松浦氏が『暮しの手帖』で働いていた頃のエピソード、大橋鎭子の話は興味深かった。