“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『イタリアの旅から』

『イタリアの旅から ー科学者による美術紀行ー』 多田富雄 著 新潮文庫

イタリアの旅から―科学者による美術紀行 (新潮文庫)

 多田先生は、免疫学・分子生物学の研究者であると同時に文筆家であり、能に造詣が深いことで知られていた。

 

 この本は、1992年に出版され、2012年に文庫化されたものである。『感染・炎症・免疫』という製薬会社が出している医師向けの販促用雑誌に連載したイタリア紀行の記事を纏めたものらしい。

 多田先生が50代の頃に書いたものということになるのだろうが、その時点で、イタリアに毎年20日程度旅行し続けて20年以上になるという熱の入れようである。そして、イタリアの各所での景色の描写は詩的で美しい。

 “イタリアへの恋に落ちた”と表現しているが、研究を生業にしている方というのは、興味を持った事物に対してはとことん極めなければ気が済まないものなのかもしれない。著者名を知らなければ、美術史家かギリシャ・ローマ史の専門家が書いたのか? といった内容である。

 一方で、能という、極めて日本的な芸能に通じていて、新作能まで創作していたことを考えると、科学と和洋両方の文化という広範囲の分野で活躍された「知の巨人」というに相応しい方だったのだと改めて思う。