“積読”供養

溜まってしまった本を整理するため、“積読”に目を通すことにした。その記録。

『美しい椅子4』

今週のお題「変わった」

  今週のお題は、春は変化の季節🌸、ということで、変化や変わり種など「変わった」ことについて書くということである。

 “積読”から拾い出し、順番に読み続けている『美しい椅子』シリーズであるが、本作は第4弾。金属製の椅子を集めている。

 金属製の椅子といっても、金属だけで作られた椅子ではなく、椅子の構造材の大部分が金属、もしくは金属ならではの特徴がある椅子を「金属をつかった椅子」として扱っているのだが、金属を用いることによって「変わった」形のユニークな椅子が次々と生み出されていった流れが面白かった。

 

『美しい椅子4 世界の金属製名作椅子』 島崎信+東京・生活デザインミュージアム 著 枻文庫

美しい椅子〈4〉世界の金属製名作椅子 (エイ文庫)

 19世紀になってから、鋼管を曲げて椅子を作ることが一般的になり、それまで家具の材料の主流だった木材ではあり得なかったような構造・形態の、変わった椅子が誕生するようになっていった。

 

 まずは、アキーレ・カスティリオーニ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニという兄弟によってデザインされた《メッザドロ》。

 なんだこれ? という変な椅子である。

 「小作人」を意味する"Mezzadro"という名の椅子には、当時のトラクターに用いられた座面が使われているのだが、著者によると、1920年代に繰り広げられた著作権論議を背景にした皮肉が込められているようだ。

  4本脚ではなく、座面の片側だけで座面を支える片持ち式の椅子、カンティレバーチェアの生みの親は誰か? という論争から裁判にまでなったものの、「アメリカ人の乗っていたトラクターには、昔からカンティレバーの座席がついていたじゃないか」ということらしい。

 

 一本脚のおもちゃのようなステファン・ヴェヴェルカの《サイド・チェア》。体操器具のようなルネ・エルブストの《イージー・チェア》、金属かごのようなハリー・ベルトイアの《ダイアモンド・チェア》、アイスクリームコーンみたいな形のヴェルナー・パントンの《コーン・チェア》などなど、木であったなら作られなかっただろうという椅子が並ぶ。

 

 しかし、オーソドックスな形の大量生産される椅子、考えようによっては安定感のあるスタンダードな椅子もまた、鉄材を材料にすることで安価なものが手に入るようになったという点も見逃せない。

 

 個人的には、実家にあった折り畳み椅子が、新居猛というデザイナーの《ニーチェアX》という椅子であったことが分かったのが大きかった。これは、別に変った形の椅子ではないのだが、デザイナーの経歴がちょっと変わっている。剣柔道具屋に生まれたものの、GHQによって武道が禁止されてしまったことで家業が立ち行かなくなったことを契機に家具作りを学んで、椅子を作ったのだそうだ。